ブント機関紙「SENKI」第1035号
(2001年03月05日号)「特集 ヨーロッパ車は粋で乗る」に
「長田 武」署名で掲載された記事



ドイツ車でもZ3はカッコだけ

見てくれで勝負だ





 本当は、ホンダが最新テクノロジーの全てを投入して創り上げたオープン・スポーツS2000が欲しかった。二年前のちょうど今頃、S2000の店頭販売価格が決まる前のプロトタイプ段階からカタログを取り寄せ、乗り出しで三百万円を切れば無理をしてでも購入を決断しようと、心に決めていた私だ。
 しかし、発表されたS2000の価格ははるかに私の予想を超えていた。口惜しいが先立つものがない。そこで私はブランドBMWのZ3というオープン・カーを、中古で手に入れることにしたのである。
 「日本車なんてスペック主義で味なんかない。ドイツ車には日本車にはない、車社会の先進国の文化があるのさ」と強がりを言いながら。
 このZ3という車。空力など無視してとにかくカッコイイ車を創ろうと思ったというデザイナーの思惑通り、デザインだけは評判が良い。しかし、九六年初期型の一・九リッター、一四〇馬力というスペックは、いざ乗り始めるととても満足できるものではない。サスペンションもフロントはジョイント・スプリング・ストラット、リアがセミトレーディングアームという一時代前の代物だ。シングルポットキャリパーのディスクブレーキも、日光のいろは坂を下りで攻めただけでフェードするという噂がある位プアなもの。
 スピードも信号待ちでカローラやシビックと並んでも、軽くブッちぎりなんていかない。
 つい最近トヨタのハイエースレジアスの新車を運転したが、そのトルク感、直進安定性やハンドリングのまとまりの良さには正直言って驚いた。「オイオイ、ミニバンなのに俺のZ3より走りがまとまっているんじゃないか?!」と、内心忸怩たる思いを味わった。
 きっとS2000に実際に試乗すれば、もっと大きなショックを受けただろう。なんせ、世界最先端のLEV(ロー・エミッション・ビークル)であると同時に、最大二五〇馬力を発揮し、徹底した軽量化とシャーシ剛性を両立させた本物のオープンスポーツなのだから。
 ちなみに、オープンカーというのは、ソフトトップであるがゆえに、そもそも車体の剛性が弱くなるという大きな問題を抱えている。Z3の剛性は普通車に劣らないという宣伝の言葉に反して、雨の日などはカーブでポトポトと雨漏りがする。既に走行距離八万キロを超えている私のZ3のドアはたて付けがズレ始めて、ドアを閉める度に「ガシャン」というなんとも言えない音を発する。さらに、エアコンからは時折「ゴーッ」という動物の叫びのような音がしたりと、まあ不満を言い出せばきりがない。
 見た目はどう見てもカッコ良すぎるZ3なのだが、要は「カッコだけの軽薄な車だ」ということなのである。その意味でもS2000は、環境負荷の低減と走行性能の向上の両立を果たしたのだから、欲しいなあ。
 横をヴィッツやシビックが追い抜いていこうが、心で泣きながら悠然と風を感じて走る。私のZ3は遅いゆえに粋なのだ。




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