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2003年3月7日
内閣総理大臣
小泉純一郎殿
元在日脱北者とその家族11名
ならびに 支援7団体
元在日脱北者とその家族の保護と日本入国等の請願
1959年12月に始まった帰国事業で北朝鮮に渡った93000余人は、取り戻すことのできない大切な人生を大きく狂わされました。北朝鮮政府と朝鮮総連は北朝鮮が「地上の楽園」であるとする一方的な情報だけを提供し、衣食住や市民的自由の実情などについて正確な情報を故意に隠し、判断を誤らせて北朝鮮に誘い出しました。労働力、技術者、資金を北朝鮮に移すことと、北朝鮮の政治宣伝に利用する意図がそこにあったのです。
帰国者が持ち帰れない財産を預かることで、朝鮮総連は巨額の収入を手にしました。帰国事業には、朝鮮総連による重大な人権犯罪としての性格がありました。そして、その被害は帰国した直後だけでなく、40年以上経過した現在まで継続しているのです。しかも、その被害は北朝鮮に渡った人たちだけでなく、その在日家族の上にも重くのしかかっているのです。
元在日脱北者の第一号である金幸一さんが朝鮮総連に損害賠償を求めた帰国者裁判で、朝鮮総連は帰国事業の「意義」や「正義・正当性」を一度として主張することなく、時効による免責だけを求めました。
元在日脱北者は、かつて日本国籍を有した人たちであり、日本で生まれ育った、日本を故郷とする人たち、日本に強い望郷の念をもつ人たちです。その人たちの親族は日本にいて、日本国籍者と広く姻戚関係を形成しているのが現状です。
これまでの歴史的経緯や社会的諸関係から、その人たちは日本の永住権を保持していると言うべき人たちであり、日本国民に準じる人たちです。そのような立場にある人とその家族が、今中国に脱北し、日本政府に助けを求めているのです。帰国者の人権問題、元在日脱北者の人権問題は、取りも直さず日本の社会問題であります。
日本国籍を持つ脱北者が中国国内で日本政府に保護を求めたときは、領事館員が出向いて身柄を保護するよう対応していると聞きます。日本国民に準じる元在日脱北者とその家族についても、日本政府が「身の安全を守るべき人」であることを明確にし、速やかに対応して保護することを強く強く要請いたします。
生命の危険から逃れる手段として中国に脱北した人たちが、そこでも身の安全を確保することができず、凄惨な被害を蒙っている現状を直視し、日本政府が人権擁護のための国際的な行動のリーダーシップを取ることを求めます。
脱北者の安全確保は人道上の課題であり、日本と韓国が連携し、官民が一体となって協力するべき課題です。国連難民高等弁務官事務所を始めとする国際機関や世界の各国の協力を求めて、日韓が共同で脱北者の人権擁護に立ち上がれば、中国政府の理解と協力を得ることも不可能ではないでしょう。
日本政府がアジアの人道問題について確かな役割を果たしていくことがマアジアの平和と安定に大きく貢献する道であり、アジアと世界の人々の期待にこたえる道であると考えます。
具体的には、以下のことを要請いたします。
1 中国で日本政府の保護を求めている元在日脱北者は、日本国民に準じる人として、速やかに保護のために必要な行動をとり、本人が希望すれば日本入国を認めること。
2 脱北者がSOSを伝えるための連絡事務所を設置し、電話あるいはインターネットなどで何時でも受信できる体制を作り、電話番号などアクセス方法を公表しておくこと。
3 脱北者の保護については、日本と韓国が自国民あるいは自国民に準じる人の問題として特別な関係を有することに鑑み、両国が強く連携して保護にあたるとともに、官民の国際機関、各国政府の協力を得て、中国政府を含めた協力体制を作ること。保護の体制がないため、悪質なブローカーの跳梁を許すなど「脱北ビジネス」を成立させていますが、脱北者保護の国際協力体制でその存立条件を消滅させること。
4 中国にいる脱北者を保護することなく、犯罪者として捕らえ、北朝鮮政府に引き渡す中国政府の態度は、著しく人道に反し、中国国内で新たな、かつ深刻な人権被害が発生しているため、難民として保護することを、中国政府に求めること。
5 難民条約の改正にあたり、人道的配慮から、国外においても速やかに日本の難民認定が受けられるようにすること。
6 日本に戻ってきた帰国者の定着支援として、(1) 公的住宅の斡旋・提供、(2) 職業訓練など自立のための支援、(3) 学校教育あるいは日本語教育の支援、(4) 急激な環境変化に伴うメンタルケアの体制、を策定すること。
以上、脱北者11名は、家族を救うためにも、日本政府に強く強く要請いたします。
元在日脱北者とその家族11名
安明河(アン ミョンハ)
李燦成(イ チャンソン)
呉寿龍(オ スリョン)
金幸一(キム ヘンイル)
姜聖姫(カン ソンヒ)
宋麗美(ソン ヨミ)
崔明姫(チェ ミョンヒ)
鄭美子(チョン ミジャ)
朴東哲(パク トンチョル)
文賢一(ムン ヒョニル)
白明葉(ペク ミョンヨプ)
支援7団体 共催
「近江渡来人倶楽部」
「北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会」
「北朝鮮の民主化と在日の明日を考える会・民主無窮花」
「在日コリアン市民協会(準備会)」
「救え!北朝鮮の民衆/緊急行動ネットワーク」
「高槻むくげの会」 (五十音順)
協賛 「北朝鮮難民救援基金」
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2003年3月9日
北朝鮮脱出者の体験と願いを
聞く集い 東京/大阪 決議
北朝鮮脱出者が語った体験は、日本で暮らす私たちの想像を大きく超え、実感を持って受け止めることが困難なほど深刻なものであった。北朝鮮に家族・親族を残しながら、真実を知らせるために証言した勇気ある11名の行動を称えたい。
苦しかった飢餓生活を涙をこらえて語った人、行方不明の娘に伝わることを願って証言した母、父母を説得して帰国させたことを後悔し、自責の念に一人隠れて泣く若き総連活動家だった娘、「帰国者2世と北朝鮮民衆の前途を開くため力を借りたい」と訴える帰国2世。
帰国船が清津港に接岸しようとしたとき、港の風景と出迎えの人々を見た帰国者は、早くも「しまった。騙された。」と気づきはじめたという。それほど社会経済状態の格差は大きく、「地上の楽園」は真っ赤な嘘であった。「人をあざむいて誘い出すこと」は誘拐であり、重大な人権犯罪である。何人もの証言者が朝鮮総連の罪と責任を指摘したのは当然であった。
今、隣国北朝鮮の民衆は危機的困難に陥り、安全を求めて大勢の人々が中国に脱出している。しかし、中国政府が脱出者を保護するのでなく、犯罪者として逮捕し、北朝鮮に送還しているため、深刻な被害が発生している。私たちは、中国政府が金正日政権の人権犯罪に共犯者となっていることを怒りをもって告発する。
1 金正日政権は核開発など軍事挑発の愚行を止め、その資金を国民の食糧調達に回し、国民に対する基本的義務を果たすことを求める。
2 中国政府は、経済活動だけでなく、オリンピック開催など文化的政治的にも国際社会に信頼される名誉ある一員となるため、金正日政権の人権犯罪の共犯となることなく、北朝鮮脱出者を保護することを求める。
3 日本政府は、日本国籍を有する脱出者だけでなく、元在日帰国者とその家族の脱出者については、歴史的経緯と社会的実情から、本人が希望すれば日本国民に準じる人として、直ちに保護することを求める。
4 北朝鮮の民衆の危機的状況を考慮し、脱出者の安全を確保するため、日本政府が積極的な役割を発揮し、本人が希望すれば直ちに日本に受け入れて保護することを求める。
5 日本政府は韓国政府と連携、共同して中国政府に強く働きかけ、早急に脱出者を保護する仕組みを共同で作り上げることを求める。
6 日本に入国した脱出者が健康で文化的な生活が営めるよう、受け入れと生活支援、教育支援の仕組みを早急に作り上げ、すでに入国している脱出者にも適用することを求める。
以上、集会参加者の総意としてこれを決議し、政府に要請する。
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2003年3月10日
在日本朝鮮人総連合会への
申し入れ書
私たちはかつて、日本から北朝鮮に帰国した在日朝鮮人二世と、その後北朝鮮で生まれた帰国者の二世です。
在日本朝鮮人総連合会(以下:朝鮮総連)が組織した祖国帰還事業で、総計9万3000人余りの在日同胞とその日本人配偶者(約1800人)が北朝鮮に渡りました。日本社会の民族差別・貧困と決別し、社会主義祖国の建設に参加するのだという希望を抱いて帰っていったのです。
朝鮮総連による「北朝鮮は地上の楽園」という宣伝を信じて帰国を決意した人も大勢いました。しかし、北朝鮮は「地上の楽園」などではなく、あらゆる物資が不足し、自由に物も言えず、移動の自由もなく、さらに私たち帰国同胞は、資本主義社会の日本から北朝鮮に来たとして、祖国の地で新たな差別と監視に晒されました。政治犯収容所に入れられたり、行方知らずになった人も少なくありません。
「地上の楽園」は真っ赤な嘘でありました。「人をあざむいて誘い出すこと」は誘拐であり、重大な人権犯罪です。朝鮮総連の罪と責任は重いといわざるを得ません。
さらに北朝鮮では90年代にはいると、朝鮮の歴史始まって以来の大飢饉で、帰国同胞を含めて膨大な数の北朝鮮民衆が餓死、病死してしまいました。私たちは、何とかして人間らしく生きるために、命からがら北朝鮮を脱出するしかありませんでした。日本は私たちの祖国ではありませんが、生まれ育った故郷です。懐かしい家族・親族・友人が住んでいます。出来ることなら、日本からの帰国者は、生き別れになったままの懐かしい家族・親族・友人に会いたいと願い、日本で暮らしたいと考えています。
このような理由により、私たちは朝鮮総連に以下のことを要求します。
1. 虚偽宣伝によって北朝鮮に帰国させた同胞に対し、責任を認めて謝罪し賠償せよ!
2. 帰国同胞と日本人配偶者の安否・消息確認を行い、一日も早く日本と自由往来が出来るよう努めよ!
3. 金正日政権への盲従をやめ、在日同胞のために活動せよ。同胞に北朝鮮の虚偽の政治宣伝をするな!
朝鮮学校では民主的民族教育を行え!
4. 帰国同胞、日本人配偶者とその家族の北朝鮮脱出者については、歴史的経緯と社会的実情から、本人が希望すれば日本国民に準ずる者として、日本政府が保護し日本に受け入れてもらえるよう行動の先頭に立て!
5. 日本人拉致被害者救出のために、積極的に責任を果たせ!
北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会・ソウル本部
在韓国元在日朝鮮人脱北者一同